2013年09月

 作家の山崎豊子さんが亡くなった。高齢で最近の健康状態を察するに、いつかは訃報に接するのではないかと感じていたが、88歳だという。
 
 女石川と称せられ、石川達三が扱うような題材を女性ながら、果敢に取り上げていたからだろう。時には盗作ではないかといった騒ぎもあったが、「暖簾」(川島雄三監督)、「ぼんち」(市川崑監督)、「白い巨塔」(山本薩夫監督)、「華麗なる一族」(山本薩夫監督)、「不毛地帯」(山本薩夫監督)、「沈まぬ太陽」(若松節郎監督)など映画にも取り上げられ、全て話題作でもあった。殊に山本薩夫監督には信頼を寄せていたそうだ。石川達三も山本監督が「人間の壁」「傷だらけの山河」「金環蝕」とやはり3つ取り上げているのと偶然一致する。
 
 上記の「暖簾」や「ぼんち」は自身の体験みたいなものを小説化しているが、後期は社会的な題材が多く、読んでいても考えされたものが多かった。殊に「華麗なる一族」は金融再編成が起きることを予見したようなドラマだ。実際に今は3つのメガバンクに都市銀行は収斂したような感じで、小説の最後の方に大蔵大臣のこれからの方針のような形になっているのには驚いたものだ。
 
 金融界のみならず、医学界、商社、航空会社などメスのいれにくいところを小説にしてくれた稀有な存在ではあった。ご冥福を祈りたい。

(収録内容)
マーラー
①交響曲第4番ト長調   ジュディス・ラスキン(ソプラノ) 1965.10.1&2
②交響曲第6番イ短調「悲劇的」                 1967.10.12or14(ライヴ)
ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団
収録場所:セヴェランス・ホール、クリーヴランド
 
 セルが手兵でマーラーを入れたのは他に、第10番のアダージョとブルガトリオがあるのみ。あまり、マーラーは好んでいなかったのかもしれない。またロンドン交響楽団とはEMIに歌曲集「少年の不思議な角笛」が存在する。
 
 さて、第4番の方は、少々厳しすぎるような印象を持つ。天国的な世界よりも現世の世知辛さみたいものを感じてしまうので、あまり気質的に合ってないのではないかと思った。しかし、第6番のその厳しさがいい方に作用して、緊張感のある演奏のように思う。ライヴなのにアンサンブルも完璧だ。観客も息を呑んで臨んでいたのか、客席の雑音はない。最後に拍手があってようやくライヴ録音ということに気付くような感じだ。

【収録情報】
CD1
・交響曲第2番ロ短調 Op.34 [46:23]
 MDR交響楽団
 クリストフ・アルトシュテット(指揮)

 録音時期:2007年3月19~22日
 録音場所:ライプツィヒ、MDRスタジオ
 録音方式:デジタル(セッション)

・交響曲第5番変ロ長調 Op.75 [31:50]
 NDR交響楽団
 ハンス・シュミット=イッセルシュテット(指揮)

 録音時期:1960年11月1~4日
 録音場所:ハンブルク
 録音方式:モノラル(セッション)

CD2
・交響曲第3番ヘ長調 Op.60 [39:46]
 MDR交響楽団
 マティアス・フォレミー(指揮)

 録音時期:2003年4月28日~5月2日
 録音場所:ライプツィヒ、MDRスタジオ
 録音方式:デジタル(セッション)

・交響曲第4番ハ長調 Op.62 [29:25]
 ベルリン・フィルハーモニー
 セルジュ・チェリビダッケ(指揮)

 録音時期:1950年12月7日
 録音場所:ベルリン、ティタニア・パラスト
 録音方式:モノラル(ライヴ)
CD3
・合唱交響曲『大いなる知恵に』Op.81 [72:27]
 ツヴェトゥカ・アーリン(アルト)
 ライムント・グルムバッハ(バリトン)
 バイエルン放送交響楽団&合唱団
 ミヒャエル・ギーレン(指揮)

 録音時期:1965年12月22日
 録音場所:ミュンヘン、ヘルクレスザール
 
ドイツの知られざる作曲家
ギュンター・ラファエル交響的作品集

フルトヴェングラーやアーベントロート、カール・シュトラウベといった往年の名指揮者たちが絶賛するドイツの作曲家、ギュンター・ラファエルは、教会音楽関係者の家に生まれたこともあってか、近代的な作曲技術は持ちながらも、その作風は後期ロマン派の流れを汲む重厚なものでした。

【マーラーなどの影響】
たとえば交響曲第2番にはマーラーの『復活』の影響が色濃く現れていますし、その他の作品でもワーグナーやブルックナー、レーガーなどの影響を感じさせる場面が多々あります。その壮大なオーケストレーションと対位法を駆使した充実した書法は、明快なドラマの構築ぶりもあって、当時の多くの聴衆に受け入れられていました。また、晩年の合唱交響曲『大いなる知恵に』にはテキストに老子が用いられるなど、マーラーの影響は生涯に渡っていたようで、マーラー・ファンには見逃せない作曲家といえるかもしれません。

【充実の演奏】
今回、ドイツのCPOレーベルからリリースされる3枚組セットには、彼の代表作である交響曲が5曲収められています。楽譜の事情からなのか、フルトヴェングラーが初演したという交響曲第1番が収録されていないのは残念ですが、前述の大作、合唱交響曲まで収められているので、ヴォリューム感はたっぷりです。
 驚くのは演奏陣。チェリビダッケ指揮ベルリン・フィル、シュミット=イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響、ギーレン指揮バイエルン放送響といった名前が連なるあたりは、やはりラファエルの人気がなかなかのものであったことを示すものなのではないかと思われます。さらに、このセットには、ラファエルゆかりの地であるライプツィヒのオケの演奏で、交響曲第2番と第3番が新しい録音で収められているのも朗報。ちなみにジャケットの絵画は、ドイツ表現主義の画家フランツ・マルク[1880-1916]による『狐』(1911)です。

【プロフィール】
ギュンター・ラファエルは1903年にベルリンに誕生。父はユダヤ系でしたがプロテスタントに改宗しており、医学を学んだあとに音楽を修めると教会音楽家として活躍し、作曲もおこなっていました。母はヴァイオリニストで、その父は作曲家であり、シャルヴェンカ音楽院で教える一方、晩年は宗教音楽の作曲なども熱心におこなっていました。
 そうした音楽一家に生まれたギュンターは早くから才能を示し10歳でピアノ曲を作曲。彼はヴィオラとピアノを演奏し、また自宅にある膨大な楽譜ライブラリから多くを学び、オーケストラや室内楽、オルガン音楽にも造詣を深めてゆきます。
 やがてギュンターはアルノルト・エーデルから作曲の個人レッスンを受け、ベルリン音楽大学に入学。1923年、父の友人でトマス・カントルでもある高名なカール・シュトラウベの助言を得て、作曲家のアルノルト・メンデルスゾーンに師事して研鑽を積みます。
 ほどなく弦楽四重奏曲第1番と第2番がブッシュ四重奏団によって初演され、ギュンターは、ブライトコップ&ヘルテル社と契約を結び、またライプツィヒ音楽院で作曲と理論を教えるため同地に転居します。
 ライプツィヒでは交響曲第1番がフルトヴェングラー指揮ゲヴァントハウス管弦楽団によって初演されたほか、交響曲第2番も完成させるなど、作曲家としても活動していました。しかし、1934年、ナチスの台頭とともにユダヤ系だったギュンターは職を失い、教え子だったピアニストのパウリーネ・イェッセンとコペンハーゲンで結婚すると、彼女が教職を得ていたマイニンゲンに転居します。この頃、ギュンターは結核に罹りますが、病院とサナトリウムとの往復は、結果的にナチの魔の手から彼を守ることになりました。交響曲第3番はこの頃に書かれています。
 戦後、ドイツは東西に分断され、ナチによって奪われたギュンターのライプツィヒでの地位が戻ることはなかったため、彼は交響曲第4番などを作曲する一方、妻とピアノ・デュオを組んでコンサートをおこない、自作の演奏などでラジオ放送やコンサートに活躍、1948年にはその作曲に対してフランツ・リスト賞が与えられます。
 1949年、デュースブルクに教職を得て生活を安定させたギュンターは、交響曲第5番やコンチェルティーノ、そして巨大な合唱交響曲を作曲。1957年にはケルン音楽大学教授に任命されますが、作曲活動は継続し、オルガン曲や室内楽曲を発表しています。やがて1960年、結核の悪化により、救急車での搬送中に死亡。57年の生涯でした。(発売元コメント)
 
 いろいろな作曲家がいるものである。この人も先日書き込んだチェリビダッケのBOXで知った人だった。割とかっちりした音楽を書く人だと思い調べたら、このアルバムにヒットした。これはまさに千差万別というか、最新録音とヒストリカルとが肩を並べて収録されている。チェリビダッケBOXに収録されていた第4番はここでもチェリビダッケによるもので、日付を見ると一日違いで、セッション録音だったのがこちらはライヴ録音になっている。
 
 上述の発売元の紹介文にもある通り、名指揮者がよく取り上げたというのは、何となくわかるような感じもする。妙に難しく作曲していないのがいい。しかし、あまり今は有名でないのは、ナチスによってキャリアを奪われたせいもあったろうと思う。

ジョン・F・ケネディ追悼 死者のための荘厳司教ミサ
モーツァルト:レクイエム
エーリヒ・ラインスドルフ(指揮)ボストン交響楽団、他
世界初CD化!

1964年1月19日、前年11月に凶弾に倒れた故ジョン・F・ケネディ大統領を追悼するミサがボストンの聖十字架大聖堂で執り行われ、そのミサの式次第の一環としてラインスドルフ指揮ボストン交響楽団によってモーツァルトの「レクイエム」が演奏されました。
 当CDに収録された録音は、ミサの開始を告げる鐘とオルガン演奏に始まり、司教の言葉や曲間の祈りも網羅して収録された貴重なものであり、史上最も有名なモーツァルトの「レクイエム」の録音としても知られていますが、CD化は今回が世界初となります。歌詞対訳・典礼対訳付き。

【収録内容】
CD1 
1 鐘
オルガン前奏 (F.クープラン:オルガンのための荘厳ミサ曲~マエストーゾ)

第1部 みことばの聖式
2 階段祈祷(一部)

・モーツァルト:レクイエム(死者のためのミサ曲)ニ短調 KV626
入祭唱: レクイエム〈永遠の安息を〉 (合唱、ソプラノ)

3 キリエ〈主、あわれみ給え〉 (合唱)
4 集祷文
書簡
 昇階唱と詠唱
 続唱
5 ディエス・イレー〈怒りの日〉(合唱)
6 トゥーバ・ミルム〈不思議なラッパ〉 (ソプラノ、コントラルト、テノール、バス)
7 レックス・トレメンデ〈おそるべき大王〉 (合唱)
8 レコルダーレ〈憶い給え〉 (ソプラノ、コントラルト、テノール、バス)
9 コンフターティス〈呪われた者どもを〉(合唱)
10 ラクリモーザ〈涙の日〉(合唱)
11 聖福音
 第2部 いけにえの聖式
 いけにえの聖式(冒頭部分のみ)

CD2 
奉献(オッフェルトリウム)
1 ドミネ・イエズー〈主イエズス〉(合唱、ソプラノ、コントラルト、テノール、バス)
2 オスティアース〈いけにえ〉(合唱)
 密唱(セクレータ)
3 序唱(プレファツィオ)と典文
4 サンクトゥス〈聖なるかな〉(合唱)
5 聖変化(コンセクラツィオ・ミッセー)
6 ベネディクトゥス〈祝せられよ〉(合唱、ソプラノ、コントラルト、テノール、バス)
 第3部 いけにえの食事
7 主祷文
8 アニュス・デイ〈神の小羊〉(合唱)
9 聖体拝領
10 ルクス・エテルナ〈永遠の光明を〉(合唱、ソプラノ)
11 聖体拝領後の文
 第4部 終了の部
 オルガン後奏(L.クープラン:シャコンヌ)

司式:リチャード・カッシング枢機卿(ボストン大司教)
助祭:マシュー・P・ステイプルトン神父(聖ヨハネ神学校長)
副助祭:フランシス・S・ロッシター神父(聖ヨハネ神学校祭式長)
聖ヨハネ神学校生たち

ベルイ・ザムコヒアン(オルガン)
サラメ・エンディッチ(ソプラノ)
ユーニス・アルバーツ(コントラルト)
ニコラス・ディヴァージリオ(テノール)
マック・モーガン(バリトン)
プロ・ムジカ合唱団[合唱指揮:アルフレッド・ナッシュ・パターソン]
ハーヴァード・グリー・クラブおよびラドクリフ合唱協会[合唱指揮:エリオット・フォーブス]
ニュー・イングランド音楽院合唱団[合唱指揮:ローナ・クック・デ・ヴァロン]
聖ヨハネ神学校聖歌隊[合唱指揮:ラッセル・H・デイヴィス神父]
ボストン交響楽団
指揮:エーリヒ・ラインスドルフ

[録音]1964年1月19日、マサチューセッツ州ボストン、聖十字架大聖堂でのライヴ・レコーディング(ステレオ)
 これは単にモーツァルトのレクイエムを聴くためだけの録音ではない。音のドキュメントとして捉えるべきものであろう。ただ、悲しい哉、カトリック教徒ならぬ身ではまさに「猫に小判」状態ではある。だが、ここではラインスドルフが振るボストン交響楽団以下の演奏者が、故ケネディ大統領へ心からの哀悼の意を演奏でもって表していることはよくわかる。
 
 

 
 ドラマ「半沢直樹」の一番の敵役である大和田常務(香川照之)は切れ者で、非情な男という設定だった。だが、山場の役員会の前夜に、彼は小津安二郎監督の「東京物語」のビデオ鑑賞をしているシーンが出てきた。家で寛ぎながらだが、そこへ細君がやってきて金の話をして、通り過ぎる。彼女の後姿に顔を歪めて抗議するようなそぶりをみせる。
 
 非情だから人間性が全く欠落している訳ではない。何故彼が小津の「東京物語」を観ていたのか。まだ、完全な悪ではないということかもしれない。あういう世界に惹かれるものを持っているということ、そして鑑賞しながら人間性を取り戻しているところかもしれない。だが、実際の仕事にそれが結びつかない人間で、それがこの人物の悲劇かもしれない。
 

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