2013年11月

(収録内容)
ブリテン:戦争レクイエム
ヘーザー・ハーパー(ソプラノ)、ピーター・ピアーズ(テノール)、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)
コヴェントリー祝祭合唱団、トリニティ少年合唱団 ジョン・クーパー(オルガン)
メレディス・デイヴィス指揮 バーミンガム市交響楽団
ベンジャミン・ブリテン指揮 メロス・アンサンブル
 
1962年5月30日、コヴェントリー大聖堂での世界初演ライヴ。
 
 ブリテン畢生の大作「戦争レクイエム」の初演の実況ライヴである。この演奏については、デッカから出ている作曲者の自作自演盤の中にも出てくる。ソプラノは元来ロストロポーヴィチ夫人であるガリーナ・ヴィシュネスカヤを念頭に書かれたものだというが、この時はソ連の政権が夫妻の亡命を恐れたとかで、出国許可がおりず、初演参加は叶わなかったという。その代役を引き受けたのがイギリスのソプラノ、ヘーザー・ハーパーだった。
 
 翌年にはヴィシュネスカヤを迎え、テノールとバリトン独唱は同一のソリストでセッション録音をデッカは行ったわけだが、では初演はどうだったのか、興味をもっていた。時代的にライヴ録音はあるのではなかろうかと思っていたが、やはり存在していたのだ。残念ながらモノラル録音ではあるが、鑑賞には差し障りはない。今は一人の指揮者が二つのオーケストラの指揮をするようだが、ここでは指揮は二人が分担しているのが注目点。合わせるのが、なかなか難しいようで、時折アクシデントもあるようだが、こういう歴史的な瞬間を耳にできることを感謝したいと思う。

【曲目】
1.シェーンベルク:ブラームスの ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25による管弦楽曲
2.J.S.バッハ~シェーンベルク(編曲): 前奏曲とフーガ変ホ長調BWV552「聖アン」
3.J.S.バッハ~シェーンベルク(編曲):「おお愛する魂よ、汝を飾れ」 BWV 654
4.J.S.バッハ~シェーンベルク(編曲):「来たれ、創り主にして聖霊なる神よ」 BWV 631
5.シューベルト~ウェーベルン(編曲): ドイツ舞曲D.820

【演奏】
シカゴ交響楽団(1)
CBC交響楽団(2,3)
コロンビア交響楽団(4)
コロンビア交響楽団のメンバー(5)
ロバート・クラフト(指揮)

【録音】
1964年7月20日、シカゴ、オーケストラ・ホール(1)
1962年12月3日、トロント、マッセイ・ホール(2,3)
1961年6月5日、ハリウッド(4)
1960年6月9日、ハリウッド、アメリカン・リージョン・ホール(5)
ADD/STEREO
 
 これもタワーがソニー・クラシカルと提携して、復刻してくれたアルバムである。日本では初めてCD化されたものである。
 
 この中でのメインはやはり最初のブラームスのピアノ四重奏曲第1番による管弦楽曲であろう。動機はシェーンベルクがこのブラームスの作品を愛好していたこと、演奏頻度が少ない、いい演奏がないこと、ピアニストがうまいと大きすぎて他のパートが聴こえないので、全ての音が聴きたかった、というのが理由と本人が語っている。実際、原曲は確かにバランスが難しいそうなのだ。
 
 さて、この作品の録音は最近でこそ、多くのものが出回っているが、1978年に初めて生で聴いた当時は殆ど録音はなかった。しかし、このロバート・クラフトのコロムビアへの録音は1964年だから、既に存在していたということだ。そして、このクラフトのコロムビア盤が最初のセッション録音だという。聴いてみて、オケがコロムビアには珍しくシカゴ交響楽団が出演している。ライナーからマルティノンに代わった頃だが、専属はRCAだったからよく実現したなと思う。ただ録音の質か、ややデットに聴こえ金管が生々しすぎるのには少々驚いた。後年に録音されたものとは別物に聴こえる。時折室内楽に立ち帰ったような部分もあって、それが強調されている。逆に新鮮な感じがするのは気のせいか。
 
 他にはバッハのアレンジものがあるが、ストコフスキーなどものとは当然全く違うし、こちらも室内楽的な要素もあるような感じがする。コロムビア交響楽団とあるのは、いわゆる西の楽団で、ブルーノ・ワルター専属の楽団のようだ。

『トッカータとフーガ&G線上のアリア~バッハ・トランスクリプションズ』

【曲目】
J.S.バッハ:
<DISC1>
1.トッカータとフーガニ短調 BWV565[オーマンディ編]
2.カンタータ第156番より アリオーソ[スミス編]
3.小組曲(アンナ・マグダレーナ・バッハの音楽帳より)[フロスト編]
(1)メヌエット ト長調 BWV Anh. 114
(2)ミュゼット ニ長調 BWV Anh. 126
(3)御身が共にいるならば BWV508
(4)行進曲ニ長調 BWV Anh. 122
4.われらが神は堅き砦[ハリス編]
5.カンタータ第147番より 主よ、人の望みの喜びよ[カイエ編]
6.小フーガ ト短調BWV578[スミス編]
7.パッサカリアとフーガ ハ短調BWV582[オーマンディ編]
8.無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 ホ短調BWV1006よりプレリュード[クライスラー/スミス編]
9.管弦楽組曲第3番より G線上のアリア
10.カンタータ第208番より 羊は安らかに草を食み[ウォルトン編]
11.甘き死よ来たれ[テイントン編]
12.カンタータ第14番より 目覚めよと呼ぶ声あり[オーマンディ編]

<DISC2>
13.トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564[オーマンディ編]
14.J.C.バッハ:2つのオーケストラのためのシンフォニア 変ホ長調作品18-1
15.J.C.バッハ:2つのオーケストラのためのシンフォニア ニ長調作品18-3[オーマンディ編]
16.W.F.バッハ:2つのフルートと弦楽合奏のためのシンフォニア F.65
17.アンリ・カザドシュ(伝C.P.E.バッハ):管弦楽のための協奏曲ニ長調[シテインベルク編]

【演奏】
フィラデルフィア管弦楽団
指揮:ユージン・オーマンディ

【録音】
1960年1月31日(1、13、14)、1960年4月10日(7)、1957年3月17日(15-17)、フィラデルフィア、ブロードウッド・ホテル、
1968年2月27日(2)、1968年5月8日(3)、1968年3月6日(4)、1968年3月11日(5、6、10)、1968年5月19日(8)、フィラデルフィア、タウン・ホール、
1959年3月30日(9)、1968年5月6日(11)、フィラデルフィア
ADD/STEREO
 
 以前、オーマンディは小品の大家などと陰口を言われていた。このアルバムは、17cmLPなんかに組み込まれたものもあった。また、何回も録音しているとおぼしきものもある。が、ストコフスキー以来、バッハをオーケストレーションしたものをやるのが慣わしになっているフィラデルフィア管弦楽団ならではのアルバムかもしれない。J.S.バッハだけでなく、息子たちの作品や贋作とされる作品まで幅広く収録されているのが魅力だ。
 
 ここにはストコフスキーの手によるアレンジものは全くない。といってオーマンディが全てアレンジしているのではなく、多くの協力者を得ているのが特色だ。イギリスのウィリアム・ウォルトンのものまである。ルシアン・カイエは戦前にこのオーケストラでバス・クラリネットの奏者として在籍していた人で、「展覧会の絵」の独自のオーケストレーションも手掛けた人だ。トーマス・フロストはオーマンディがCBSに録音する時にプロデューサーでもあった人物。ウィリアム・スミスは1970年代にオーマンディのアシスタントを務めていたという。
 
 こんなふうに身近な協力者を得てのものは、なかなか多種多彩で面白いものを感じる。オーマンディの力を感じる。この後、RCAに移籍した後も同じようなアルバムを出している。

【曲目】
モーラン: ヴァイオリン協奏曲
ディーリアス: 伝説(ビーチャム校訂)
ホルスト: 夜の歌 Op.19-1, H.74
エルガー: 夜の歌 Op.15-1(ロジャー・ターナー編曲版世界初録音)
エルガー: 愛の挨拶 Op.12(ロジャー・ターナー編曲版世界初録音)
エルガー: 朝の歌 Op.15-2(ロジャー・ターナー編曲版世界初録音)
ヴォーン=ウィリアムズ: 揚げひばり

【演奏】
タスミン・リトル(ヴァイオリン)
アンドルー・デイヴィス(指揮)、BBCフィルハーモニック

【録音】
2013年5月23日&26日、メディアシティUK(サルフォード)
 
 タズミン・リトルはイギリス音楽におけるヴァイオリン曲の普及に務める奏者である。ここでも有名な曲のほか、割と珍しい曲を演奏している。また、新たにヴァイオリン用にアレンジされた作品も世界初録音を果たしている。彼女の父君は俳優だが、ディーリアスの音楽をとても好むディーリアンだそうだ。そうした環境が、音楽家としての方向性を決定付けた要因の一つだったように思う。
 
 この人がすれぞれの楽曲をいくつしみながら弾いているのが、聴き取れる。最後の「揚げひばり」は、このアルバムの白眉。アルバムのタイトルにもなっている。
 

 トスカニーニによるベートーヴェンの交響曲全集は戦後のRCA盤が有名だが、1939年の10月から12月にかけて8Hスタジオで収録された、観客入りの演奏を評価する向きも多いと聞く。調べたら、何と3種類のアルバムがある。「Music & Arts」「Andorometa」「Memories」で、米独伊と国まで異なる。その内、「Andorometa」は他に収録されていない「七重奏曲」と「合唱幻想曲」も収録した完全収録というのが売りのようだ。
 
 手許不如意のため、一番安価な「Memories」で聴いている。古いのでその辺は割り引いて聴いているが、いささか高音がきついので、音楽もきつく聴こえる。実際のトスカニーニの音楽造型も厳しく、とっつきにくい曲もある。第4番なんかはもっと余裕が欲しいなと思った。 総じて、RCAのセッション録音よりは勢いを感じた。

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