2015年03月

 
 今、シューマンの交響曲第3番「ライン」の譜面を渡されていて、何回か練習にも参加したので、興味を持っている作品である。その譜面というのが普段よく使われていると思われるブライトコプフ社のではユニヴァーサル出版というウィーンの会社のもの、すなわちマーラー版である。既に録音でもシャイーがわざわざ「マーラー版」と銘打って出しているが、既存の古い指揮者はどうなのかと思って聴いてみた。そのまず手始めがブルーノ・ワルターである。
 
 1941年にニューヨーク・フィルを振って、米コロムビアに録音したものである。この曲についてはこれ一つしかない。ナチスの迫害から逃れ、回り道した結果やっと大西洋を渡って、米国に定住しようと決めた頃のもの。年代的にはアメリカ合衆国が参戦する直前の緊迫した時代でもある。
 
 LP時代にもまた今手許にあるCD(上の写真のもの)にも特に版についての断り書きはない。しかし、マーラーの弟子を任じるこの巨匠はどういうもので演奏しているか、今まであまり気にしていなかったのだが、耳をそばだていた。そうするとやはりマーラー版にかなり近いとわかった。殊に自分のやる楽器の動きでマーラー版の特徴の部分ははっきり聴き取れた。やはり師匠のものを採用していたのかと妙に納得したが、さらに詳しい方の解析によるとこのマエストロ独自の箇所もあるようだ。この曲は殊に金管奏者にとってはかなり難しい曲ではある。むやみに音が高かったりする。第4楽章のホルンや1stトロンボーンなどはかなり苦しそうだし、一部で音を外しているのが聴こえたりする。大学時代、プロでもしくじる大変な曲ということでかなり脅された曲でもあった。概ね、弦楽器と同じ動きをしているのだが、音量拡大装置として金管はあるのだという面もあって、いささか面白くない部分もあるのは事実だ。

【収録情報】
Disc1
① プロコフィエフ:交響曲第1番ニ長調 op.25『古典』
② ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調 op.73『皇帝』

Disc2
● シベリウス:交響曲第2番ニ長調 op.43

ユージン・オーマンディ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
アルトゥール・ルービンシュタイン(ピアノ)

録音時期:1963年6月14日
録音場所:ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール
録音方式:モノラル(ライヴ)

 オーマンディはフィラデルフィア管弦楽団しか指揮していないとかつては思っていたが、結構単独でヨーロッパへ行って、その地のオーケストラに客演していることが、わかった。その中にはウィーン・フィルやバイエルン放送交響楽団なども含まれている。そして、これはイギリスへ赴き、クレンペラー時代のフィルハーモニア管弦楽団の指揮台に登場した時のもの。しかも、ルービンシュタインとの共演は、ファンにとってはまたとない機会だったろう。商業録音ではこの二人は当時専属会社が違っていたので、共演はなかった。

 セッションと違うライヴ独特の緊張感があって、演奏は立派なものだ。しかし、BBCが収録したと思われる録音はやや割れ気味なのが残念だった。ことにメインのシベリウスがそういう傾向が強い。楽器編成も3曲中一番大きいせいもあるかとは思う。

【収録情報】
Disc1
シューベルト:交響曲第8番ロ短調 D.759『未完成』
② マーラー:子供の魔法の角笛~第9番『トランペットが美しく鳴り響くところ』
③ マーラー:リュッケルト歌曲集より~第4番『私は仄かな香りを吸い込んだ』
Disc2
● マーラー:交響曲第4番ト長調

ブルーノ・ワルター指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ)
 録音時期:1960年5月29日
 録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
 録音方式:モノラル(ライヴ)
 音源提供:INA(フランス国立視聴覚研究所)

 これは、ブルーノ・ワルターがVPOと最後に共演した記録である。今回はフランスで発見された良質のテープによるものということで、アルトゥスから出たものを入手した。上の写真の左側のものだ。因みにアメリカのMusic & Artsからもライヴ録音が出ているが、これで聴いたことはない。ただ、「私はこの世から忘れられ」がこの盤には収録されていない。探したが、フランスにはなかったと言われている。また、予告から1年も経過したのは、それを探していたからだとも言われている。

 1960年といえば、ワルターの師であるマーラーの生誕100周年にあたる。所縁のあるウィーンの藝術週間で、そのマーラーの作品を取り上げるというので、病身に鞭をうってワルターはウィーンにはせ参じたという。そしてこれが最後のウィーンでの出演となったというわけである。どういう思いで、指揮台に立ったかはもう推察するしかないが、万感の思いを込めて、ワルターもVPOのメンバーも演奏に没頭したに違いない。モノラルで必ずしも状態はベストではないが、そういう思いはくみ取れる。また、それだから聴いている方も胸を打たれるのである。やや遅めのテンポは、少しでも長く留まっていたいという思いがあったのではないか、考えてしまう。購入したCDのリーフレットにはその時の有名な写真は権利の関係か掲載されていないが、Music & Artsのものを見ると、コンサートマスターはヴィリー・ボスコフスキーがいる。また、やや上手側にはシュワルツコップが立っていて、ワルターが客席側を向いて挨拶しているようなポーズのものだ。観客も見納めだということは自覚していたろうと思う。出会いと別れのドラマを内包した感慨深い演奏だと思う。彼らが残してくれたかけがえのない遺産と思って、大事にしてゆきたいと思うのである。

http://img.hmv.co.jp/image/jacket/400/62/4/5/588.jpg
【収録情報】
Disc1
● ラヴェル:『ダフニスとクロエ』第2組曲(録音時期:1964年11月)
● ルーセル:『バッカスとアリアーヌ』第2組曲』(録音時期:1964年12月)

Disc2
● ヴァレーズ:『アルカナ』(録音時期:1966年3月)
● マルタン:7つの管楽器とティンパニ、弦楽器のための協奏曲(録音時期:1966年3月)*

Disc3
● ニールセン:交響曲第4番 Op.29『不滅』(録音時期:1966年10月、12月)*
● ニールセン:序曲『ヘリオス』 Op.17(録音時期:1966年10月、12月)*

Disc4
● ビゼー:『アルルの女』第1組曲、第2組曲(録音時期:1967年4月)
● マスネ:タイスの瞑想曲(録音時期:1966年12月)
● ラロ:歌劇『イスの女王』序曲(録音:1967年5月)*

Disc5
● バルトーク:組曲『中国の不思議な役人』 Op.19』(録音時期:1967年4月)
● ヒンデミット:『気高い幻想』(録音時期:1967年10月)

Disc6
● マルティノン:交響曲第4番『至高』(録音時期:1967年11月)*
● メニン:交響曲第7番『交響的変奏曲』(録音時期:1967年10月)*

Disc7
● ウェーバー:クラリネット協奏曲第1番へ短調 Op.73(録音時期:1967年5月、1968年5月)*
● ウェーバー:クラリネット協奏曲第2番変ホ長調 Op.74(録音時期:1967年5月、1968年5月)*
 ベニー・グッドマン(クラリネット)

Disc8
● ラヴェル:スペイン狂詩曲(録音時期:1968年4月、5月)
● ラヴェル:組曲『マ・メール・ロワ』(録音時期:1968年4月、5月)
● ラヴェル:序奏とアレグロ(録音時期:1968年4月、5月)

Disc9
● ビゼー:交響曲ハ長調(録音時期:1968年4月)
● メンデルスゾーン:『夏の夜の夢』~序曲、スケルツォ、夜想曲、結婚行進曲(録音時期:1967年7月)*

Disc10
● カサドシュ:ピアノ協奏曲 Op.37(録音時期:1969年6月)  *原盤:CBS
 ロベール・カサドシュ(ピアノ)
 フランス国立放送管弦楽団

● パガニーニ/フレデリック・ストック編:無窮動(録音時期:1966年3月)
● ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(録音時期:1967年5月)
● ラヴェル:ラ・ヴァルス(録音時期:1967年5月)
● ラヴェル:ボレロ(録音時期:1966年3月)
 
ジャン・マルティノン指揮 シカゴ交響楽団
カサドシュのみCBS盤。他全てRCA盤
 
【シカゴ時代のマルティノン】
シカゴ響音楽監督時代のマルティノンの音楽作りは「リズムとフレージングの絶妙な感覚で、オーケストラのテクスチャを見事に浮き上がらせる」と絶賛されました。マルティノンは5年間のシカゴ響在任中にRCAにLPにして9枚分の録音を行なっています。
 「精密さ、強度、広大さとリズミカルな覚醒感の組み合わせは、特にこの作曲家の官能的なサウンド~パレットに合う」と評されたラヴェルの主要オーケストラ曲、ルーセル『バッカスとアリアーヌ』やビゼー『アルルの女』などのフランス音楽に重点が置かれつつも、ジャズの巨匠ベニー・グッドマンとのウェーバーのクラリネット協奏曲、さらにはアメリカの作曲家ピーター・メニンの交響曲第7番のほか、マルタン、ヴァレーズ、ヒンデミット、バルトーク、そして自作の交響曲第4番『至高』に至る20世紀作品が数多く取り上げられているのが特徴で、マルティノンが当時シカゴ響で取り組んでいた幅広いレパートリーをうかがい知ることが出来ます。
 中でもニールセンの交響曲第4番『不滅』と『ヘリオス』序曲を収めたアルバムは、シカゴ響からスリリングで爆発的なエネルギーを引き出し、フィナーレにおけるティンパニの大胆な強調も含め、非常に明快な解釈で作品の真価を知らしめた最初の演奏といえるでしょう。
 マルティノンのシカゴ響時代は、彼にとって音楽的には生涯でも実り多き時代といえるもので、その充実ぶりはこれらRCAの録音に明確に反映されています。シカゴ響自体も、前任者ライナーのもとでむかえた黄金時代の輝きをそのまま踏襲しており、名手のそろった木管・金管、重厚でしかも精密なアンサンブルの弦楽パートなども健在です。
 録音面でも、当時のRCAが誇った「リビング・ステレオ」という見事に完成されたテクノロジーによって収録されており、その輝かしいサウンドは今聴いてもじゅうぶんな鮮度を保っています。

【ボックスの内容】
今回のボックスのディスク1~ディスク9は、マルティノンとシカゴ交響楽団とのRCAへのLP9枚分の録音が、初出時のカップリングとジャケット・デザインによって復刻されています。またディスク10には、マルティノンの離任後もしくは没後にようやく発売されたシカゴ響とのオーケストラ曲4曲(日本で世界初CD化された時は大きな話題となりました)、それに初めてCD化される、1969年にフランス国立放送管を指揮してコロンビアに録音したカサドシュのピアノ協奏曲第2番(ピアノは作曲者自身による)という超レア音源を収録しています。
 今までCDとして発売された音源については新たに24ビット・リマスタリングが施され、未CD化音源については、オリジナル・アナログ・マスターテープからの最新リミックス&24ビット・リマスタリングが行われており、音質的には申し分ありません。
(以上:販売元のコメント)
 
 ジャン・マルティノンの指揮する音楽をまともに聴くようになったは、EMIに入れたドビュッシーやラヴェルだった。だが、名前を知ったのは、カタログ冊子でシカゴ交響楽団を振って録音したレコードの掲載物からであった。だが、何故かこの時代とEMI盤のマルティノンが頭の中で結びつかなかった。たぶん、長らくカタログから殆ど姿を消していて、聴く機会がなかったというのが最大の原因だったと思う。そして、この人が在任中は必ずしも好評をファンから勝ち得てなかったということもあったと思う。これが全貌ということで、曲目を見ると、ドイツものはウェーバーやメンデルスゾーン、ヒンデミット以外は全くない。フランスものを中心に現代音楽もあるのだが、少し強面のするものが多い。自作やアメリカの諸作がそれだ。またニールセンなどもあまり思い入れをせずに淡々と速めのテンポで演奏していて、少々素っ気ない。
 
 このオーケストラはドイツものをよく演奏してきたのに、コンサートのプログラムからはかつての常連の曲は演奏されなかったらしい。ちょっと実験的な作品やつかみどころのないフランス音楽が多く演奏されたので、一般聴衆は困惑してソッポを向いたという。ただし玄人受けはしたという。ここにはモーツァルト、ベートーヴェンもブラームスもない。(あまりこの指揮者にそういうものは期待はしないのだが。)
 
 録音は初期のステレオながら、今聴いてもいい感じだ。紙ジャケットというのはあまり歓迎するところではないが、オリジナルのLPのデザインが復刻されている。カップリングもLPとほぼ同一になっているところが多いのかもしれない。ただし、ロベール・カサドシュとの共演は当時ライバルだったコロムビア盤だ。これはソニーの下に統合されたからであり、ちょっとここは違和感を覚えるが、珍しい曲なので得した気分にもなる。価格も手ごろであるのがうれしいが、やや投げ売り的にも見えて複雑な気分でもある。



 

 
 CSの衛星劇場で「蔵出し映画」のコーナーがあって、その1本として放映されていた。この作品はフィルムセンターに所蔵されているが、16mmでの所蔵とあった。どうも1963年の作品ながら、まともな形で残っていないのではと危惧していたが、この度の放映は極めて良好な状態のプリントでやってくれて、安堵したものである。
 
 宮崎県の観光バスガイドを主人公に据えたご当地ものの映画である。大船得意の「小市民映画」の系譜の作品。五所監督だから、その辺りは手馴れたものだろうが、逆をいうと新味に乏しいということであろう。日本初のトーキー作品を手がけ、戦前は才気煥発な監督だったのに、この時期になる少し古めかしい作品ばかりが並んでいるのは残念に思ってしまう。
 
 ただ、救いは登場人物に心の葛藤が描かれていることだろう。一人の男性を姉妹が慕ってしまい、悩む姿。一方は結婚にこぎつけるも病魔に襲われて亡くなってしまう。そんなところが劇的起伏があって、まだ見られる。それから女性の社会進出もまだほんの入口的な描写だが、付け加えられていて興味深い。ただし、本筋にとってつけたような印象で必ずしも成功とは言い難い。50年以上も経過してロケ地も変貌していよう。新婚旅行のメッカと言われていた時代だが、今はそんなことを言う人はいない。今は女優として活躍している野際陽子がまだアナウンサーとして活動していた姿が少し出てくる。NHKを辞めてフリーになった頃。そして、相手になっているのが藤原あき。この人の名前を出してもわからない人が多くなったが、NHKのクイズ番組の回答者として出演していた女性文化人の一人だった。オペラ歌手藤原義江の夫人だった。このシーンは第一線で女性が活躍している例としてヒロインが東京見学している時に出てくる。昭和の懐かしさは満載ではあるが、いずれも取ってつけたような印象は同じである。

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