この映画は滅多に上映される機会がない。我が家にあるビデオをDVDに焼いたもので久しぶりに観てみた。スクリーンでは2回くらい観ているが、名画座ではない特別な機会だったかと記憶している。初見の後に、原作も読んでみた。岩波文庫で4冊に渡る大作だ。また、劇団民藝の由緒ある演目で、同劇団の大幹部だった滝沢修の主要レパートリーでもある。この名優は戦前から、この演目に取り組んでいる。吉村公三郎監督によるこの映画も滝沢の主演で民藝とのユニットになっている。

 さて、この物語は幕末から明治初期にかけての木曽路にある庄屋が舞台で、そこの当主は学者肌で平田学派に傾倒して、理想社会の打ち建てを目指そうとするが、現実は厳しくその乖離に精神を病んで、幽閉されてしまうのである。革新を目指すも案外、女性に対する見方は古く、今だったら糾弾されかねない発言もする。あまりに生真面目すぎて、余力のない生き方は気の毒なくらいだ。これを左派系の人たちが取り上げるところが面白い。