カテゴリ: 伊藤大輔監督


 伊藤大輔監督は、弱い者が強い者に対して抵抗するというドラマを多く手掛けている。その中で「下郎」三部作というシナリオを書いていて、その内「下郎」は戦前の作品でどうも現存していないようだが、戦後の1955年に新東宝で撮った「下郎の首」は名作の誉れが高い。そしてもう一つは映画化されなかったようだが、その代わりに発表になったのが本作。

 これなどは奴さんは派遣人材ということが出てくる。参勤交代の時に口入屋から町人が派遣されるのが面白い。だが、中には侍にしてやると甘言を弄して、問題の責任をなすりつける武士もいる。ここに登場する武士たちがそうだ。そして、そういう類は21世紀の現在も日本にあるような感じがするのは残念である。

 伊藤監督は中村錦之助と組むことが東映時代は多かったが、これは大川橋蔵主演。錦之助では少し強い感じがするので、少しナヨナヨとした橋蔵を選んだのだろうか。最後の大立ち回りはこの監督ならではのものと思う。

 初見は蒲田商店街にあったカマタ宝塚という映画館。フィルムのコマ飛びはあまりなかったが、褪色が著しいプリントだった。今は修復したもので、観られるのはありがたい。


 谷崎潤一郎の「春琴抄」を映画化した2回目の作品。1935年の島津作品以来19年ぶりの再映画化である。この後、衣笠貞之助監督の「お琴と佐助」、新藤兼人監督の「讃歌」、衣笠作品のシナリオを底本とした西河克己監督の「春琴抄」と続く。

 さて、衣裳の派手なこととは裏腹に、どうも谷崎文学の世界は一種異様な人物ばかりが目立つ。本作の主人公二人もちょっと我々のような凡人からはあり得ないほど異常な人たちだ。ヒロインの言い出したら聞かないわがままは十分他人の顰蹙を買うのだが、絶対服従の付き人の男の姿勢はほとんどマゾに近い。今の若い人なんかは理解の範疇を超えるのではなかろうか。そういう異常な世界に焦点を当てたのが新藤作品らしいが、これだけはまだ観ていないのである。ATG的なちょっと前衛的なところが自分の肌合いに合わないので敬遠している面もあるが。他観た作品はどれもきれいごとで描いている。本作はまだ嫉妬とかいう要素を取り入れていて、それが他とややちがうのかもしれない。なかなか映画にするのは難しいのかもしれない。

 
 河竹黙阿弥の「青砥塙花虹彩画」、通称「白波五人男」の映画化。歌舞伎ではよく知られた演目だが、悪事の限りを尽くした弁天小僧菊之助が町娘の清純に打たれて、最後は商家の窮状を救う話である。その商家の主と娘は実は...。そういう伏線もありながらの、重厚なセットをバックに絢爛に伊藤大輔監督が捌く。伊藤監督得意の移動撮影や、監督のトレードマークの「御用提灯」も多く登場。テンポも小気味いい。これが東映に移ると、やたら力んだ作風になってしまったのは残念である。
 
 撮影の宮川一夫をはじめ、スタッフも一流そろい。その宮川が御用提灯のシーンの種明かしをしていた。実は同じエキストラを右に左に走らせて撮ったのだという。御用提灯を如何に多くあると印象付けるかは、スタッフの手腕だったのだろう。1958年と言えば、映画人口がピークに達した時代。そういう活気ある頃の作品である。

 
 伊藤大輔監督が東映で撮った2本目の作品である。「反逆児」とか「徳川家康」といった実在の人物を描いたものとは異なり、比較的肩の力を抜いて撮ったような作品である。シリーズとしては3作目で前2本の加藤泰監督と交代した形である。
 
 この映画は旧・文芸坐で行われた監督特集の5本立てオールナイトの最後の作品として上映されたのを観た。もう30年以上も前の頃、眠らずによく観られたものだと呆れている。古い順に「王将」「大江戸五人男」「下郎の首」「弁天小僧」とあって、この作品だった。
 
 御用提灯が走り回り躍動感のある作品に仕上がっている。前述したように割と気楽に鑑賞できるのがいい。錦之助もここでは比較的自然な演技をしてくれる。

 本作の初見は、30数年前のフィルムセンターでの「伊藤大輔監督特集」の1本としてであった。今回はCS放映ながら、それ以来の出会いになる。
 
 資料によると1965年1月3日公開である。正月映画にふさわしい豪華な配役である。原作は山岡荘八の同名小説。ただし、2時間23分だが、家康の青年期までの話で、家康の誕生から成人までの周辺事情が中心で、必ずしも家康(竹千代~松平三郎元信)が主人公ではない感じである。信長に中村錦之助が扮しているせいか、それが目立ってしまう。といって信長も主人公ではない。何やら焦点が絞り切れていないような感じがする。また、本作出演の中堅俳優たちの力みきった演技には、初見当時は大いに当惑した覚えがあるが、今回はそれほどでもないというのは、年齢を重ねたせいだろうか。東映時代劇には珍しく新劇系列の俳優が多く、御大・千田是也も出ているせいか、俳優座の面々が多い。また、語りは滝沢修が担当している。
 
 他の方のブログによると、錦之助ファンと原作ファンには評判が悪かったという。いずれも中途半端な印象を残したのかもしれない。
 
 当初の企画では「宮本武蔵」のように1年1作主人公の成長を描こうとしたと資料にはあったが、そんな感じは映画からも感じられる。ただ、時代劇が退潮傾向で結局この1本で打ち切りになってしまい、伊藤大輔監督はこれを最後に東映を退社している。

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